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第3章 聖なる石と空の十字架




「まずは着替えよう! もっと綺麗な服に!」
 廊下に出るなりハロルドが高らかに宣言したので、白雪は「へ?」となった。
「男の服に――じゃ、ないんですよねやっぱり」
「もちろん!」
「……もちろんと言われましても……」
 女装の海賊というだけでも理解を超えているのに、衣裳の替えまで用意しているなんて。
(徹底してるなあ)
 今までこういう突き抜けた趣味の人に逢ったためしがないせいで、驚けばいいのか、それとも感心するべきなのか、はたまたあきれてしまっていいのか――白雪にはさっぱり判断がつかない。元気がいいのは、好きだけれど。
「おやおや? なに他人事みたいに遠い目をしてるのかなー? 着替えるのは、おれじゃなくて君だよ?」
「ってわたし!?」」
「当然。だって君が今日のお姫さまなんだし」
「……そのお姫さまというのは、ちょっとやめていただきたいような……」
 ノリにノッているハロルドの後を一応ついてはいくが、白雪の眉はすっかりハの字だ。
 これより華やかな格好をして、実は女だとバレる隙を作りたくないのが、まず一つ。
 それにもう一つ、朧姫さまという正真正銘の姫君をあるじにしていたので、わたしなんかが姫君ごっこをするのは滅相もないという気持ちも、まじめな白雪の中にはある。……そもそも「お姫さま」なんてガラじゃないし。
「というか、今着てるこの青いドレスでも十分綺麗ですよ」
「そんなみみっちいこと言わない。時と場所とお天気によって多彩に装いを変えるのが、本当の貴婦人ってものさー」
「いや、貴婦人っていうのもちょっと……わたしは男ですよ?」
 もしかしてお忘れですか? という気持ちを暗にこめて突っ込むと、舞でも舞うように軽快にステップしていたハロルドが急に立ち止まった。
「…………」
「……ハロルドさん?」
「……そういえば君、男の子だったんだねー」
「やっぱり忘れてたんですか!!」
 思わず全力で叫んだ。天井の低い通路に、思いっきり声が響く。
 ハロルドは悪びれずに言う。
「だって君ってば、細いし小さいし素で可愛いしドレス似合うし? ま、おれも東方人を見るのは初めてだけどさ。こんなに可愛い子が男の子なら、東方人の女の子は一体どうなっちゃうんだって思っちゃうよー」
「どうなっちゃうんだと言われましても」
 話がイヤな方向に行きそうだったので、白雪は表面上は落ち着きを保ちながら、急いで風向きを変える。
「話を戻しますけど、ハロルドさん。これから商船団との『取引』をするはずですよね?」
「だよー」
「わたしたち、のんびりお着替えなんてして遊んでていいんですか」
「といっても、交渉はほぼ船長・副長の分野だし、おれたちにできることはないよー? 当直でもないのに出張って、みんなの仕事を奪うこともないし。特に君はまだ船乗りとしては素人なんだし、役に立ちゃしないって」
 さらっとキツいことを指摘され、眉をひそめていた白雪は言葉に詰まる。
 役に立たないのは――事実だ。どうしようもなく。
 先日正式に、キャビンボーイ――船長の召使として名簿に名前を載せられたはいいが、海賊として必要な技術が身についたとはとても言えない。船が傾いて海に落ちかけたり、物資にけつまずいてコケたりという経験を、一日に何度していることか。
「だから、おれと一緒にお着替えしようねー」
「何が『だから』なのか、さっぱりです」
「あれー? 言ってなかったっけ?」
「何をです」
「今夜は襲撃がうまく行ったお祝いでパーティーするから、君には給仕役をしてもらうって」
「ひと言も聞いてません……」
 あまりのマイペースぶりに頭痛がしてきた。
「じゃ、お仕事っていうのは」
「そう。綺麗なかっこして、みんなにお酒ついだりお料理運んだり。君もそんな外見して男の子なら、女の子の代用品みたいな扱いは気にさわるかもしれないけど、ま、娯楽の少ない海賊を慰めるためと思って、がんばってくれるー? おれも一緒にやるからさ」
「――わかりました」
 淡い水色の瞳をやさしく輝かせて提案するハロルドに、白雪はうなずき、自分を納得させた。
 役立たずなのだから、できることなら、なんでもしたい。
(それに、今はなんでも身体を動かしていたほうがよさそうだし)
(……変に考えすぎて、くよくよしないように)
 突然取り戻した記憶と、それが生んだ切ない痛みをなだめるには、別のことで空元気を出すのが一番だと、白雪には思われた。

 そんなこんなでたどりついたのは、白雪が初めて入る船室だった。
 扉は温かみのある白。
 つる薔薇がはっきりと浮き彫りにされたその扉を開けば、船長室の半分ほどの空間が広がっていた。舷窓にかけられたカーテンや壁紙は、淡いピンクの薔薇柄で統一されている。床板や壁際に積み上げられた木製の箱は、光沢のある飴色。絨毯もピンク色が基調だ。
(……か、可愛い?)
 オライオン号は海賊船とは思えないくらい内装の凝った部屋や、華やかな装飾がめずらしくないのだが、ここはまた異次元だった。まるで、姫君が住まうお城の一角のような、おとぎ話調の雰囲気である。

「ハロルドさん、この部屋を飾りつけたのは」
「おれー」
「……やっぱり……」
「白雪、それよりこっちだよ。おいでおいで」
 白雪よりよほど乙女趣味な海賊の、ふわふわとした声に招かれる。
 ハロルドはやけに誇らしげに微笑むと、扉と同様白く塗られたクローゼットの扉を開けた。
 げっそりしていた白雪は、その瞬間、あごを落とした。
「……な」
 クローゼットの中には、白雪が今着せられているようなドレスがぎっしりと詰まっていた。
 フリルやレースやリボンの奔流だ。目がくらむほど華やかな色彩である。
 今日は朝からハロルドにぽかんとさせられ通しだが、この衝撃はまた別格だ。
「これ……もしかして略奪品ですか?」
「外国の船からいただいたのもあるけど、ほとんどのには、おれがアレンジ加えてるしー。後は、おれが一からデザインして縫ったのもあるよー?」
「ハロルドさんがこれを縫ったんですか!?」
「そうだよー。おれは操舵手であると同時に、衣裳係だからね!」
「それはすごいですね……。一体全部で何着あるんですか」
「んー。数を数えるのって得意じゃないんだよねー」
 風向きを計算する操舵手とも思えないセリフをうそぶきながら、ハロルドは「そう、これこれ!」と、衣裳箱から一着を引っ張り出した。
「今夜のパーティーは、これで行こう!」
 もうなんでもいいよ……。
 という気分で白雪が受けとったのは、黒地に白い飾りが映える衣裳。
「――これ……普通のドレスとは違いますか?」
「あ、わかる? ドレスじゃなくて、ちょっと特殊な作業着なんだ。女物だけど」
「女物なのは見ればわかりますけど」
 白雪が眉をひそめたのは、渡されたワンピースが、「作業着」にしてはフリルやリボンといった装飾が多すぎるせいだ。袖に何段ものレースがついているのは、「作業着」には邪魔なように思える。
「まあ、簡単に言うとメイド服」
「めいどふく?」
「あ、知らないか。おれたちの母国でね、貴婦人に使える女使用人が着るものなんだ。おれ流のアレンジがほんのちょっぴり入ってるけど」
(女使用人……)
(姫さまに仕える女官みたいなものかな?)
 だとすれば、華やかさに納得できないでもない。
 朧姫さまに仕える女性は――護り手の白雪を除いて――みな、色とりどりの打掛や小袖をまとっていた。身分の高い教育係の老婦人などは十二単だったし。
(ただ……)
(疑問なのは、ハロルドさんの『あれんじ』が本当に『ほんのちょっぴり』なのかってところだけど)
 なんとなく釈然としない気分で、メイド服と一緒につけるよう渡されたこれまた飾りの多い付属品をしげしげと眺めていると。
「じゃ、さっさと着替えた着替えた」
「ひゃあ!?」
 ハロルドになにげなく背中のリボンをほどかれそうになり、ぎょっとして跳び上がった。
「な、何するんですかいきなり!! 変態ですか!」
「? 着替えの手伝いだよ? 男同士なんだから、そんなビビらなくたって」
「! いや、でも……その――わたしの国では、男同士でも肌を見せたりしません!」
「しないの?」
「はい、絶対に!」
 焦りまくったあげくに、一世一代の大嘘をぶち上げる。
 言った後で「嘘にも程がある」「もしハロルドさんが四生嶋のことを知っていたら最高にマズい」と気づいて血の気が引いたが、
「そーなのかー。ずいぶんお堅いんだね、シキシマって国は」
 ハロルドは、思った以上にあっさり納得してくれた。たぶん女服を着せるのは大好きでも、脱がすことに執着はないのだろう。
(よかった、無名の国で)
 ひそかに胸を撫で下ろす。
 白雪の母国はよくも悪くも小さい上に孤立した島国だから、ハロルドたち西方人にはよく知られていないらしい。「東方人はカタナで山を真っ二つにできるってマジか?」「じゃ、家が全部黄金でできてるって?」と、船員たちにおかしな質問を浴びせられたことが、今までに何度あったことか。
「じゃ、自分ひとりで着られる?」
「はい。たぶん」
「なら、いいかなー。あ、そうそう、これとか使ってみない? より本格的に!」
 ――何がだ。
 そろそろ疲れて荒みはじめた心境で突っ込みつつ、白雪はハロルドがうれしそうに突き出したものを両手で受けとる。
 白くやわらかいパンのような物体だ。布を器用に継ぎ合わせて中に硬く綿を詰め、球を半分に割った形にしたものが二つ。妙に気持ちのいい弾力がある。……ってまさか。
「おれの最新発明」
「これはもしかして……胸に」
「正解! こっちは厚みを減らして作った、おしり用。男って悲しいことに、女性独特のやわらかいラインがないからねー。まあそれはそれで、ムキムキに似合わないものを着せて笑いをとりにいく手もあるけど、君はなかなか女装が似合うからさ。いっそ本格的に突き抜けてみようよ!」
「ええー……」
「おれが本物の質感を追求して改良を重ねた自信作だから、安心して詰めてね!」
 白雪はどうしようもなく脱力した。
「海賊のくせに、なんてものの改良をしてるんですか」
「大丈夫! 海賊が女装しちゃいけないという決まりはないよ!」
「自信たっぷりに言い切ることでもないでしょう!」
 さすがに何かが臨界点に達して、思わず対アレクと同じ勢いで突っ込んでしまった。
 白雪は大きくため息をつく。
 この船には風変わりな人物が多いが、この青年は間違った方向に開き直りすぎていて、手のつけようがない。おまけにしばしばノリが意味不明だ。性格は最悪だが話はまともに通じるアレクや、常識人のクリストファのところに帰りたくなる。
 なんとはなしに、二つに分けてそれぞれをリボンで結った黒髪を指に絡め、白雪はふと小刻みに瞬いた。
(そういえば、アレク船長――)
 医務室で逢ったときの、アレクの不機嫌な表情を思い出したのだ。
 鋭い青の隻眼。
 今朝着替えを手伝ってくれたときは、確かに親切で、やさしかったのに。
(あれはやっぱり……わたしのせい、だよな)
 女の服を着て、クリス先生の前でめそめそ泣いていたから、女々しいとあきれられた?
 世話が焼けすぎると思われた?
 イライラされてしまった……?
 ――悪いほうにばかり考えてしまう。
 自分がどちらかといえば根暗だという自覚はあるので、白雪はかぶりを振ると、落ちこむ物思いをやや強引に断ち切った。
(あとでもう一度、ちゃんとお話をさせてもらおう)
「――ハロルドさん。この作業着、後で着てもいいですか?」
「どーして?」
「この青いドレスと髪形は、船長に着るのを手伝っていただいたんです。だから、着替えますって、ひと言、船長に言ってから着替えたいなと思って」
「なるほど。でも律儀だねー。東方人って、気を遣いまくるほう?」
 そういうことで、渡された「作業着」はとりあえず手近な麻の袋にたたんでしまい、持っていくことにした。
 できるなら、着替えはキャビンボーイの個室でしたかったという気持ちもある。ハロルドの無邪気なノリで、うっかり着替えを見られたりしたら、と思うと心臓に悪いし。
 廊下に出る。
 横揺れで軽くよろめいたとき、上の甲板でから、話し声がきれぎれに聞こえてきた。
(そろそろ『取引』の時間かな?)
 藍色の髪をいったんほどき、また器用におだんごを作り直しながら、ハロルドが言う。
「今度着てみたいドレスのデザインがあったら言ってねー。おれが作ってあげる」
「だからどうして女物限定なんですか」
「だって、男物のつまんない支給服ならいくらでも予備があるから燃えないんだよー。ドレスと女装は男のロマンだよ。おれ的な解釈ではね。――ってそういえば白雪は、あいつとまともに話したことなかったよね?」
「あいつ?」
「甲板長、ジェフリー=アッシュ!」
 まるで高らかに歌うみたいな口調で、ハロルド。
 くるりとその場でターンすれば、彼の着ている素朴だが愛らしいチュニックの裾が、花が開くように広がる。まるで舞のワンシーンようだ。
「今日の午後で『退院』だったはずだから、ちょっと逢いに行ってやろう」
「退院って――隔離病室からですか?」
 風邪などの他人にうつる可能性のある病気の船員は、とある船室に隔離されて、船医のクリストファに治療および管理されている。
「そーそー。あいつムキムキのくせに、なんでか風邪とかよく拾うんだよ。たぶん運が悪くて要領もよくないせいだろうけど――」
「――なんだとコラ」
 物騒な響きの声が聞こえてきたのは、なんと頭上からだ。驚いて顔を上げると、上の甲板から階を降りてきた人影があった。

 びっくりするほど上背のある青年だ。
 しかも、これぞ船乗り、という逞しい体格なので、ゆっくりと近づいてこられるだけで威圧感が凄まじい。ハロルド曰く「つまんない支給服」――簡素な木綿のシャツに藍色のズボン、腰に黒のサッシュという洒落っけのない格好だが、容姿はとびきり印象的だった。
 褐色の肌だ。
 日に灼けたというには濃すぎる肌の色は、おそらく生まれつきなのだろう。みがいたオーク材にも似た色合いの肌だ。
 無造作に切り下げた髪は灰みがかった銀。やや三白眼ぎみの瞳も、同じ色。
 あまり洗練はされていないが精悍な顔立ちに、その色彩がナイフの切れ味を添えている。
 が、不思議と「危ない」感じは受けなかった。どことなく好青年っぽいのだ。
(動物にたとえるなら……)
(ハロルドさんは毛の長い猫で、ジェフさんは、銀灰色の毛並みをした狼犬?)
 白雪の一族には、虫獣を扱う術に長けた者がいたが、その者が相棒としていたのが、狼犬といわれる希少な大型犬だった。狼と犬の長所をあわせ持った、強靭にして俊敏な肉体のけものだが、なかなか心を開かない。しかし一度あるじに服従したら、絶対に裏切らない。
 あるじが死んだら、狼犬も自ら死を選ぶ。武士の鑑のような魂を持つけもの――
 ――ジェフリー=アッシュという青年は、そんな狼犬を連想させる。

 ハロルドは楽しそうに諸手を上げて、褐色の肌の海賊を歓迎した。
「よーうジェフ! 病気しても変わらずムキムキで何よりー」
「なにが『何よりー』だ。人の陰口叩いてんじゃねえ」
「陰口じゃないよー。ジェフの気配がしたから、わざと言ったんだ。堂々とした悪口さ!」
「威張んな!」
「はっはっは。で? 体調はどうなのさー」
「退院して早々、おまえの女装に出くわしたりしなかったら、もう少し気分がマシだったかもな」
 とても明るいが突っ込みどころしかない科白をのたまいながら、なつっこく抱きついてこようとしたハロルドの額を指ではじき、ジェフが苦々しく嘆息する。
 なんだかんだと親密そうな雰囲気に入っていけない白雪はといえば、二歩ばかり引いた位置で、何もかもが正反対の二人を観察していた。
(ジェフリーさん、アレク船長より大きい……)
 ちょっと怖い。
 ――が、年の頃はたぶんハロルドと大差ないのだなと、聞く前に予想がついた。
 アレクと違って、ジェフは目が素直だ。
 ハロルドへの遠慮のない言いようにも、相手をからかったり挑発したりする色はない。よくも悪くも、思ったことをそのまま口にしている。ノッたまま・気の向くまま発言するハロルドと、そこだけは共通点だった。
 ジェフとハロルドの、仲がいいのか悪いのかわからない挨拶は続いている。
「どうしておまえはいつも絶好調で変人なんだ」
「そう言う君だって、いつも無駄に筋肉自慢だろージェフ」
「うっせえ。――ったく、オレじゃなくておまえが入院して治したほうがよかったぞ絶対。特に頭。何よりも頭。まずその変人ぶりは治療できねえだろうけどな」
「変人変人って失礼だな。おれはちょっと女の子の服が好きで、ちょっと男なだけだろー。幼なじみなんだから、いい加減慣れろよー」
「慣れるか! しかも何が『ちょっと』だ!」
 まったく同感だ。
 と、白雪は口に出さずに、ジェフの突っ込みにうなずいた。
(でも、このお二人が幼なじみ?)
(失礼だけど、相性が……最悪にしか思えないなぁ)
 ジェフの長年の苦労が忍ばれる。
 白雪などは、半日付き合っただけでも異様に精神力を削られたのに、この怖いぐらい逞しいけれど性根のまじめさが顔に出ている好青年は、ハロルドの突き抜けぶりを何年相手してきたものか。
 笑っちゃいけないが妙に微笑ましくもあり、白雪は頬がゆるまないよう必死でこらえていたら、ジェフが不意にこちらを振り返った。強い目線にびっくりして、それから、慌ててぺこりと頭を下げた。
「そこのちっさいのは」
「やっと気づいたのー? にぶいな」
「存在にはとっくの昔に気づいてたけど、おまえの突っ込みどころが多すぎて話に出せなかったんだよ! ――それでどうした」
「新入りの白雪だよ。東方人の男の子」
「東方? ……男?」
 じろじろと見られて、白雪は軽く息が止まった。
「ジェフと話したことないって言うから、紹介したげようと思って。――白雪、この色黒で超かさばるのがジェフ。怖そうに見えるかもだけど、そんなに怖くないから安心していいよー。私服のセンスは最ッ悪だけどね」
「おい!?」
 悪意はないが、さりとて幼なじみをかっこよく見せようとは微塵も考えていない紹介に、すかさずジェフが叫ぶ。
「あ! ――やッば、大事な仕事忘れてた」
 が、そんな幼なじみの抗議をまるっと聞き流して、ハロルドは急にきびすを返した。
 ――え、どこに?
 うろたえかけた白雪をの肩をぽんと叩いて、彼女同様、なんだなんだ? という顔をしているジェフを振り返り、ハロルドは軽やかな口調で言った。
「とりあえず、おれの挨拶も白雪の紹介も済んだしー。ジェフ、ちょっとの間、おれの代わりにこの子見ててくれるー?」
「え」と瞬きした白雪。
「ああ?」と、これは眉をひそめたジェフ。
 二人の意見は一致していた。――いきなり一緒にいろと言われても困る。初対面だし。
 だが、さほど雄弁とはいえない白雪たちが反論するより早く、ハロルドはさっさと自分の言いたいことを言ってしまった。
「仲良く午後のおやつでも食べてさ。親交を深めるといいと思うよー。じゃ、後でまた!」


2010.04.22. up.

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